Like a Cinderella.

記憶が確かならば、確かバブルがはじける前、時代が平成に入っていない頃だと思う。

名古屋市内の繁華街近くに友人が住んでいた。そのマンションは隣のビルとの境が殆ど無く、窓を開けると隣のビルの壁しか見えないと言う、狭くジメジメした建物だったが、家賃が格安、玄関あけたら二分で飲み屋(古いな)という好条件だったためフィリピン人女性がずいぶんたくさん生息(?)していた。これは後に判った事だが、殆どがオーバーステイのタレントで、まあ言ってしまえば"タコ部屋"だ。

当時週に一度はその友達とつるんでいたので、良くマンションを訪ねた。
階段の下にある公衆電話のところで夕方にしょっちゅう電話を架けている一人の女の子がいた。きっかけは忘れたが何度か挨拶を交わし、次第に会話をするほどに仲良くなった。 スペインの血が濃く出ているのだろう。肌の色もそんなに黒くはなく、でも背が子供のように小さい。これまた小さな丸顔の半分が目なんじゃないだろうかというくらい大きくてこれまたクルクルよく動く瞳、長いまつげは瞬きの度にオイラを引きつける。

当時のオイラ、英語なら日常会話程度は大丈夫だったが、勿論タガログ語は一切分からない。オイラの日本語訛りの英語と彼女のビサヤ(フィリピンの地方名)訛りの英語、それに片言よりは少しましな日本語とで会話をした。
家族の話や友達の話、日本の好きな食べ物とか歌など。でもオイラが仕事のことを訊ねると、笑顔が一変して暗くなり、「日本は厳しい。」を繰り返していた。そして彼女は日本に来て半年以上になるけど繁華街から出たことが無く全く知らないと言った。伏し目になると長いまつげがいっそう長く見えた。

結構大胆なこととをしたものだと思う。ルールを知らない怖さもあった。オイラは彼女の店に一度も行ったことがないのに、なんと彼女をデートに誘ってしまった。勿論同伴出勤なんかじゃなく、昼間普通にデートをしようと誘ったのだ。冷静に考えてみれば彼女も良く承諾したモンだと思う。

約束の日、朝こっそりと部屋を抜け出してきた彼女。今 来日している女の子達とは比較にならないくらい給料などの待遇も悪く貧乏だったのだと思う。秋口で日本人の女の子なら目一杯おしゃれを楽しんでいる季節、でも、彼女の服装は見るからにものすごく粗末だった。それでも髪を整えリップを塗り、オイラとのデートのために悲しいくらい精一杯のお洒落をしてきたのが分かった。
今のオイラを知っている人は信じてくれないかもしれないが、何とか彼女をもっと綺麗にしてやりたいと思い、ショッピングモールのようなところに行き彼女に服と靴・バッグを揃えてやった。
服を整えると彼女の魅力は倍増した。こぼれそうなほど大きな瞳はずっとオイラを見ながら微笑んでいた。
デートは車で40分ほど走った名古屋から少し離れた田舎町。南国から来た小さなお姫様を観光案内する。ボートに乗り、アイスクリームを食べ、観光地を見て歩く。ベスパのスクーターではなく車だったのが残念だが、気分はオイラが大好きなオードリーの映画「ローマの休日」だった。
彼女と手を繋ぐだけでドキドキした。小さな手は、折れてしまいそうなほど細い指をしていた。肩を抱くと、ドキドキは一層激しくなりオイラの心臓の音が彼女に聞こえてしまうんじゃないだろうかってほど高鳴るのがわかる。

正直に言おう。その日のオイラ、本音ではものすごくSEXをしたかった。車でラブホテルの前を通り過ぎるたびに何度「入ろう。」と思ったことか。歩いているときも、何度かその折れそうなほど細い腰を抱きしめたいと思ったことか…
でも「日本に来て良い人に会ったことがない。」と言っていた彼女。よほど仕事で辛い想いをしていたのだと思う。その言葉を思い出し「今日だけは良い人になり、彼女を楽しませるデートをしよう。」と思いグッと堪えた。今考えてみると、若かったオイラがよく我慢できたものだと…(自粛)

夕方、マンション近くまで送っていき、別れ際、彼女は背伸びをするとオイラの首を両方から抱え込むようにしてオイラを抱きしめた。そして二人は初めて激しいKISSをした。半分ぶら下がったような彼女を見下ろしながらのKISSは、気のせいかトロリと甘い南国の果実の味がした。
彼女の顔が微笑みから泣き顔に変わっていく。大きな瞳のせいか泪の粒も大きいかった。オイラのことを見上げながら、大粒の涙が頬をつたう。そしてその長いまつげをビショビショに濡らしながら彼女が言ったセリフは今も忘れられない。"I was so happy today, but just like a Cinderella." 時間が来て部屋に戻るとカボチャの馬車は元に戻ってしまうことを知っていたのだろう。
 
涙を人差し指で拭うと泣き顔を微笑みに直し、「じゃあね。」とひと事だけ言うと彼女はアパートの方へ駈けていった。何度もオイラの方を振り返っては手を振りながら…。
残されたオイラは、彼女の唇の感触を思い出しながら、その場にしばらくの間呆然と立ちつくすしかなかった。


後日、彼女がオイラのフィリピーナとのH初体験の相手になる。(その話はいつかまた)
でも結局、彼女が働いていた店には一度も訪れることはなかった。彼女が「自分が仕事しているところを見られたくない。」と言ったからだ。

結局彼女はオーバーステイで入国管理局に保護され、フィリピンに強制送還された。そのことを知ったのは何日か経ったあとで、全くオイラとは連絡も取れないまま終わってしまった。勿論今では彼女がどうしているか全く知らない。

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